海の上の鍵

ツーリング出発を明日夜に控えた本日。早々に盆休みの予定を会社に伝え、2ヶ月前からフェリーと宿を予約し、ツーリングマップルをチェックし、荷造りも終えてなんとか準備完了。いよいよだな〜と思いながらふと、バイクのキーが見当たらないことに気づく。

・・・・ない。

まてよ。台湾旅行に行く妹に、バッグを貸してほしいと言われて貸した。それは街乗りのときいつも使っている赤い斜めがけのバッグだった。

まさか・・・・

妹の乗る船は昨日横浜を出航し、既に南の海の上。携帯電話すら通じない。

一瞬、目の前が真っ暗になった。血の気が引いた。この暑いのに身震いした。鼓動がだんだん速くなる。暑さとは違う汗がじわり滲む。

部屋中をひっかきまわしてキーを探す。最後にバイクに乗ったのはいつだ? 先週末か? 落ち着け、落ち着け、貸すときに中身をちゃんと出したはずだ。あるはずだ、いつものようにひょいとどこかに置いてしまっただけだ。ピアノの上。机の上。テーブルの上。玄関の靴箱の上。ジャケットのポケットの中。リュックのポケットの中。落ち着け、ちゃんと探せばあるはずだ。

ない。

海の上か・・・・?

ぬあああああああ何ヶ月も前から計画してずっとずっと楽しみにしてたのに昨夜も現地合流のメンバーも交えて楽しみだねーって Skype してたのに今日の明日でなんでこんなことにヒラ部員1号氏になんて言って詫びればいいんだばかばかばかばkばあkばbかあーーーーー

泣きそうになりながら足下に目をやると、ヘルメットが転がっている。初心者マークをつけた、シルバーのフルフェイスのヘルメット。

目の前に一筋の光が見えた気がした。祈るように、おそるおそるその中に手を突っ込む。まず触れるのはいつも入れているグローブ。そしてちゃりん、という藤やんと赤べこの鈴の音。

ああ、こんなにも鈴の音が壮大なる安堵を以て響くことを他の誰が知り得るだろう。私はキーをかたく握りしめ、ほとんど腰が抜けたようにその場に座り込んだ。そして思った。出かける前からこれじゃあこの旅も先が思いやられるなと。

それでもきっと最後には天は味方してくれるのだ、そう今回のように。芳しくない天気予報も、いい方に外れるに違いない。なんの根拠もなく、そんなことを思った。

10 thoughts on “海の上の鍵

  1. by ヒラ部員1号 at

    ゴールデンウィーク初日の新潟でそれと同じことやったよね :p

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  2. by petite-tomo at

    はい・・・あん時はおサイフでしたね・・・
    バカというかなんというか、バカですね、ハイ。

    >hitoさん
    いやもうほんと、こんのクソ暑いのにマジで寒気がしました。
    本気と書いてマジ。

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  3. by klavierchen at

    ひじょうにみじかいショートショートの中に
    壮大なドラマを見ました。ありがとう。そして笑いました。
    そして気をつけて行ってらっしゃいませ。

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  4. by ritsu at

    「十万馬力の破壊力」のキーじゃ、やはり走らないか・・・メーカー違うしね。
    気をつけてツーリング楽しんできてください。( ´¬`)ノ

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  5. by panchan1121 at

    鍵、ほんと、あってよかったですね。
    なかなか、スリリングな読み物でした。

    旅行中でなくてよかった。
    お気を付けて。

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  6. by Danjun at

    スペアキー無いの?
    と、突っ込んでみる。(笑)

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  7. by covaemon at

    オチは、バイクにつけたままかなって思った。
    とにかく、あってよかったね。気をつけて行くべし。

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  8. by Loy at

    なんか、一緒にドキドキしてほっとしました。
    よかったね、見つかって。
    私も似たよーなことを瞬間やります^^;

    気をつけていってらっさい(^^)ノシ
    写真UPまってるよ~

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