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食卓の情景

食卓の情景どこかのごはんブログで紹介されていてポチったところの、池波正太郎「食卓の情景」。池波正太郎の食にまつわるエッセイ。老舗の料理屋から下町の屋台、家庭料理に至るまで、ああこの人は食べることが好きなんだなぁというのがすごく伺えて、わたしも食べること大好きだから、なんか親しみがわく。生まれが浅草なので、わたしが以前住んでいた場所のものすごく近くの描写があったりしてそんなのも楽しい。漂う昭和の空気が昔懐かしい感じ。今もある老舗のお店もけっこう登場するから、行ってみたくなってしまう。文章はさらっと書いてあるようだけど、その食べ物やお店、人、そういう情景がありありと浮かんでくるようで、さすがだなぁとおもう。そして食べたくなる(笑)。

赤めだか

赤めだか少し前に個人的 B’z ブームがきていたとき、稲葉浩志が立川談春と対談している動画を見た。それで興味をもって、どれ本のひとつでも読んでみようかねといったところで立川談春「赤めだか」。立川談春が17歳で立川談志に入門し、二ツ目そして真打ちになるまでを描いたエッセイ。

噺家だけあって、話のテンポがよくて文章がうまい。いろんなドタバタエピソードが生き生きと描かれている。築地魚河岸修行の話、いいなぁ。あと着物を買うために競艇で博打を打つ話は実にドラマチックであった。落語についてはまったく無知なんだけど、立川談志という人はやはりカリスマというか天才というか、とにかくすごいんだろうなというのが伝わってきた。

はるまき日記

はるまき日記 偏愛的育児エッセイ江古田ちゃんの作者の育児エッセイが文庫になっている。ちょっと読んでみたいよねってことで、瀧波ユカリ「はるまき日記」

まずおもったのが、あれ、四コマ漫画じゃないんだ、ということ。文章もいいけど、やっぱり漫画で読みたかったなというのが正直なところ。でもさらりと読めるので太郎との生活のちょっとした隙間時間に読むにはいい感じだった。赤子あるあるも大いに共感。

そしてはるまき6ヶ月の2011年3月11日、あの地震、そして原発。著者は東京を脱出、生まれ故郷でもある北海道に移住した。太郎はそれ以後の世界に生まれてきたから今はもう普通にここで生活してるけど、もしあの時に太郎が生まれていたらわたしはどうしていただろう。

この本わりと賛否あるみたいで、まあちょいちょい引っかかるところはあるけど普通に楽しめた。あと著者紹介のとこで気づいたけど、瀧波ユカリって日芸なのね。しかも写真学科。だから江古田ちゃんでも写真学生のヌードモデルのネタとかあったのね〜と納得。

天災と国防

天災と国防ずいぶん前に文体一致診断で寺田寅彦と言われたので(今日やってみたら浅田次郎だった)買って積んでいたところの寺田寅彦「天災と国防」。著者は物理学者で「天災と国防」ってんで、さぞや小難しい論説文なのかとおもいきや(だから長年積んであったw)、2011年の東北地方太平洋沖地震の後にまとめられた災害関係の随筆集だった。

書かれたのが戦前なので現代には当てはまらないこともあるのは当然だけど、深い考察から得られたものは現代の問題を考えるにも参考になる部分が大きいとおもう。「津浪と人間」の冒頭で、こんなに度々繰返される自然現象ならこれに備えて災害を未然に防ぐことができそうなものなのに実際はそうもいかないのが人間的自然現象だと言っているが、まさにその通りで同じように災害は繰返された。そして「天災と国防」の中で「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する」と指摘しているが、先の震災での原発事故を思わずにはいられない。

庭にくる鳥

庭にくる鳥読んでいた他の本に出てきて買った、朝永振一郎「庭にくる鳥」。エッセイ集なんだけど、ノーベル物理学賞を受賞している著者の視点がユーモラスでおもしろい。

この中の「ねこ」は、引っ越しをしたところ飼っていた猫が新居になじめず、行方不明になったり石炭箱の中で真っ黒によごれて丸くなっていたり、という珍事を綴っている。わたしはネコ助さんのことを思い出したが、朝永氏の息子が MIT に留学しているとき、慣れない海外生活と猛烈なスピードで進む授業に参りかけていたところに父から送られてきた「暮しの手帖」に掲載されていたのがこの随筆だったという。「猫よ頑張れ」という父の言葉は、息子にあてた激励であったのだ。

もののはずみ

もののはずみよそのブログで見て気になって、堀江敏幸「もののはずみ」。この人の小説は昔読んだことがあって、でも内容がどんなだったかよく覚えていないんだけど、静かな雰囲気の美しい文章だったことは記憶にある。そしてこの本も、そんな空気が感じられる素敵なエッセイ。

パタパタ時計、鉛筆削り、秤、ビー玉や古タイル。著者がパリの裏路地の古道具屋で出会った、愛すべきガラクタたち。国境も時間も超えて愛された物もの、そのひとつひとつに物語があって、それをすごく大事にしてるのがよく伝わってきて、なんだかこちらまで愛おしい気持ちになってしまう。わたしもわりと物には執着するタイプだから、その気持がすごくよくわかる。子供の頃大事にしていた宝箱の中をそっと覗いてるみたいな、あたたかい気持ちになれる。

活版印刷の活字を入れる箱が出てきて、かなりグッときた。「雪沼とその周辺」も再読してみようっと。

ひとり暮らし

ひとり暮らしたまたまなんだけど、ここんとこ読む本にエッセイが続いた。で、谷川俊太郎「ひとり暮らし」。なんかまったりとして穏やかで心地いいかんじ。ユーモラスで、それでいてときどきはっとするようなこと書いてる。家族のあり方とか、友人との関わりとか、メディアアートに対する考えとか、音楽のこと、そして詩のこと。興味深い。詩人の日常ってなんだか仙人みたいなのを妄想しがち(?)だけど、普通の素敵なジイサンだなぁと。

この人、中学とか高校の合唱曲の作詞でよく出てきて歌ったもんだけど、文章もなんかいい雰囲気で好きだなとおもった。