なんとなく松浦寿輝が読みたくなり、そういえば芥川賞とってるんだなぁとおもって、「花腐し」。にわか地上げ屋となった中年男が、その立ち退かない住人の男と酒を飲んでは、死んでしまった恋人や裏切られた友人といった過去の意識に引き戻される。こういう陰鬱な雰囲気は好きだ。雨の気配もその陰鬱さを増していていい。この人の小説って、現在と過去であるにしろ現実と仮想であるにしろその境があやふやなようなイメージなんだけど、切り取った時間が留まっているような、そんな感じがなんか好き。とにかく暗いけど、それもまたよし。
作中で「意識なんていうお化け」っていう一節がでてきた。人間なんてのは元はと言えば蛋白質の寄り集まりで、なんやかんやしてるうちに意識だとか心だとかいうお化けが生まれちゃった。お化け。本当にそう、お化けだよなぁ。ちょっとずれるけど、わたしは自分が死んで、もしまた自分という意識だとか存在があったらとおもうとぞっとする。べつにひどい苦労とか不幸を味わってるわけじゃない、むしろ日々楽しく過ごしてるけど、それでも人生なんてもうまっぴらごめんだな。
塵が寄り集まって、ほんの一瞬だけある形を作ったと。しかしそういう不自然なことは続かないからたちまちほどけて散ってゆく。その一瞬の形というのがあんたの人生の全体なのよ。何とも爽快じゃあないですか