悪人

悪人(下) (朝日文庫)九州から東京に戻るフェリーの中で読もうと持っていったものの、船酔いするため結局読めなかった、吉田修一「悪人」。帰ってきてから読んでみてびっくり、舞台がちょうどわたしがこの連休に駆け巡った九州北部ではないか。主人公は車好きの青年で、道の描写も多くちょっとワクワクする。殺人現場となる三瀬峠は今回通らなかった道だけど、連休前に読んでいたらルートにいれたかもなぁ。登場人物の博多弁がかわいい。

田舎で祖父母と共にひっそりと暮す青年が、出会い系サイトで知り合った女性を殺害する。はじめ、「悪人」はこの男のことと認識される。しかし読み進めていくうちに、好きな車に乗りながら慎ましく暮らし、出会い方はどうあれ不器用ながらも出会った女たちを愛してきた男の姿を見ると、こういう人って現実にけっこういるんじゃないかとおもうし、被害者の女性や周囲の人間の描写を見るにつけ、彼が悪人ともおもえなくなる。そして終章に向かうにつれ、この「誰が悪人だったのか?」という問いが濃いものとなっていく。

この物語はフィクションだけど、同じような事件はきっと数多あるんだとおもう。被害者の遺族の心情なんかも胸を刺すものがあった。

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