痴漢の森

小学生のころ、学校の近くに「痴漢の森」とよばれる森があった。痴漢が出るから痴漢の森である。今おもえばトンでもない名前であるが、当時は普通に使っていた。

痴漢の森とはいうけれど、じっさいに痴漢そのものをその森で見た事はなかった。都市伝説のようなものなんだろうと理解していた。だけどなにしろ痴漢の森なので、あまり近づいてはいけないという風潮があった。

小学校3年生くらいだったか、水泳の授業中に、女子更衣室から女子児童数名の洋服が盗まれるという事件が発生した。たしかわたしも被害にあった気がする。数時間後、痴漢の森でその洋服たちは発見された。その時、やっぱり痴漢の森なんだ・・・! と、幼心におもったものだ。

小学校も高学年になってくると、遊び場的に痴漢の森にも足を踏み入れるようになる。それでもやはり、痴漢そのものには出会わなかった。中学生になると、通学路そのものが逆方向に変わったため、痴漢の森に接する機会がなくなり、生活の中で「痴漢の森」という呼称を聞くこともあまりなくなった。

そしていま、痴漢の森は伐採され、住宅地になっている。そこにいた痴漢はどこへいったのだろう。それとも、最初から痴漢なんていなかったのか。真相は、よくわからない。どこにあるかみんな知ってる、どこにあるか誰も知らない。痴漢の森は、心の迷路。いやそれまっくら森。

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