墨汁と鉛筆削り

うちの母親の教育方針のひとつに、墨汁を使ってはいけないというのがあった。墨はするもの、墨汁なんぞ邪道である。という考えによるものだ。おそらく。授業では墨汁を使うことが前提とされ、墨をする時間など設けられていない。小学生の私は、書道の授業のある日の朝、せっせと墨をすって登校したものだ。しかしながら、どんなにがんばってすっても墨汁を使っている他のクラスメイトに比べてわたしの墨は若干薄く、それが妙に恥ずかしいことのように思えた。

似たようなことで、鉛筆はナイフで削らなければならない、というのもあった。鉛筆削るのに機械を使うなんぞ邪道である。という考えによるものだ。おそらく。小学生の私は、そりゃもう器用にナイフを使って鉛筆を削ったものだ。しかしながら、どんなにがんばってきれいに削っても、鉛筆削りで削ったものとの差は歴然たるもので、それもまた恥ずかしいことのように思えた。

それでも、がんばったかいあってか、なくてか、オウテカ、わりと書道や硬筆はうまいほうで、よく表彰されたりしていた。(今となっては見る影もないが)

中学生になり、シャープペンシルを使うようになり、鉛筆は削らなくなった。高校生になり、書道の授業が必須科目でなくなり、墨をすらなくなった。

高校三年大学受験の冬、先生が、入試の時は鉛筆を使うといい、と言っていた。で、休み時間には鉛筆削れと。ナイフで削れと。黙々と鉛筆を削ることで、精神統一が図れるからとてもいいのだ、と。そういえば母上も「墨をすると集中するでしょ」みたいなことを言っていた。わたしはここではじめて、なんとなく母の教育方針に合点がいった気がした。

まあ、ただ単に吝嗇だっただけかもしんないけど。

墨汁と鉛筆削り」への4件のフィードバック

  1. by Danjun at

    わかる!すげーわかる!
    同じだったもん。まぁ、そこまで強制的でなかったけど。
    心が落ち着くんだよ。物事に真剣になれるんだよね。
    ただ、自分の子供には受け継がせることが出来ないでいるなぁ。
    一度だけ、墨をすらせたことがあるけど。
    鉛筆削りはせめて電動でなく、手回しの手動ということで妥協してるけどw

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  2. by yunoizumi at

    共感できるなぁ 私の場合は教育方針の影響は無かったけど、合いそう・面白そうと感じ、自ら手動の道へと歩み始めてました(汗

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  3. by cova at

    鉛筆はともかく、墨汁なんて邪道です。まあ、なんだ、僕の子供の頃はまだ墨汁なかったし・・・
    墨をすると集中する、それ絶対です。これから字を書くぞって気になりますからね。
    わかりやすく言えば(?)、墨はMACで、墨汁はWINですな。って、わからんか。

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  4. by Danjun at

    追記
    そうそう、思い出したのだけど、墨をすっている時、すずりの水面をじっと見つめていると、暗く虹色に輝く墨の結晶のようなものがだんだんと埋め尽くして行くのをじっと見ているのが好きでした。
    そして墨の匂い。
    思い出しただけでも落ち着く…

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